れんしゅう
今日も死を見送っている
生まれては立去っていく今日の死を
自転公転をつづけるこの地球上の
すべての生き物が 生まれたばかりの
今日の死を毎日見送り続けている
なぜなのだろう
「今日」の「死」という
とりかえしのつかない大事がまるで
なんでもない「当たり前事」のように毎日
毎日くりかえされるのは つまりそれは
ボクらがボクらじしんの死をむかえる日に
あわてふためかないようにとあの
やさしい天がそのれんしゅうをつづけて
くださっているのだと気づかぬバカは
まあこのよにはいないだろうということか
(まど・みちお『百歳日記』)
101才の詩人、まど・みちおさん。
いつだったか、出張中のホテルで朝NHKを見ていたら、
まどさんのドキュメンタリーをやっていた。
そのみずみずしい感性に、目が釘付けになった。
101才なのに、まどさんから口から出てくる言葉はまるで少年のよう。
絶え間ない世界への好奇心と、疑問、驚き、感動。
彼の言葉を聞いていると、
私の世界までも一瞬にして変わってしまうかのようだった。
何気なく吹く風、木漏れ日を作る光、そこに転がっているペン。
それまで黙っていたモノたちが、突然こちらに話かけ始める。
言葉で世界が”一転”するんだ・・・・・・。そう思った。
言葉ひとつで、世界の捉え方が変わる。見方が変わる。
考え方が変わる。
つまり、世界が、変わる。
「この人に会いたい!」と思った。
以来ずっと気になっていた。
そんな中、この年末にまどさんから140字の原稿をいただけました。
(「週刊朝日」1月7,14合併号グラビア)
書いてきてくれたメッセージは、言葉の大切さ。
言葉って簡単なのにやっかいで、面倒で、難しい。
いわずに おれなくなる
いわずに おれなくなる
ことばでしか いえないからだ
いわずに おれなくなる
ことばでは いいきれないからだ
いわずに おれなくなる
ひとりでは 生きられないからだ
いわずに おれなくなる
ひとりでしか 生きられないからだ
(まど・みちお『百歳日記』)
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