深夜、タクシーに乗って家の近くで降りる。
パタン、と扉をしめ、ずっしりと重い鞄を肩に感じながら暗闇の中よたよた家に向かって歩いていると、遠のいていたはずのタクシーが背後で戻ってくる気配がした。
運転士がなにやら言っている。
「お客さーん!」
あら、忘れ物しちゃったかしら、とそちらへ歩み寄っていくと、
「すいません、千円札が一万円でした。よく注意しないでもらちゃって・・・」
びっくりした。
確かに支払いをしたあとの自分の財布をみて、あら、あと千円しかないや、お金がなくなるのって早いなあ・・・私ってだめだなあ・・・なんて思ったけれども、一万円と千円を間違っていたなんて思いもよらなかった。
そしてなによりも、それをまるで自分の非であるかのような態度で、私にわざわざ車をもどして一万円を返しに来てくれたという、その運転手の心に、びっくりしてしまった。ちょっと感動してしまった。
大げさに聞こえるかもしれないが、今日という日が彼によって救われた気がした。
そう、もっと人を信用してもいいのかもしれない。
もっと彼らの言葉を心から信じ込んでみてもいいのかもしれない。
なんだか、嬉しいような悲しいような切ないような変な気分。