大学時代の友達とよる音楽を聴きに行って、その帰りにカフェで飲んでいた。
昔、スペインで待ち合わせて一緒にモロッコへ行った話になった。
「そうそう、そういえばあのとき、待ち合わせのホテルに行ったら、私と同じ
バックパックが置いてあって、あれ?と思ったらあなたのだったのよね。私たち
まったく同じバックパックで旅行していたのよね。」
などと話し出した。
え?ええ?
あ・・・そういえば、バックパックは同じだった気がする。うっすらと思い出す。
私はモロッコ旅行といえば、食べ物にあたって、
スペインに戻ってから熱が出て、食べ物の記憶の走馬燈をみたこと、
モロッコにいる間きれいな満月だったこと、
土色の壁の迷宮、ほこりっぽいタクシーの座席、安宿の薄いブルーの壁、
そんなことを真っ先に思い出す。
彼女の話を聞いていると、同じ場所に一緒にいたはずなのに、
まるで覚えているものが違うので、不意打ちをくらったような気持ち。
ちょっと、焦る。
確かに「それ」を生きたはずなのに、まるで覚えていない。
私が覚えていることなんて、
ある事実のうちほんの一方向のアングルからの記憶だけなのでは。
ああ、おそろし。