深夜12時をまわり、やっと責了・・・!
タクシーに乗って大酉祭でにぎわう新宿、花園神社へ直行した。
鳥居をくぐったとたん、それまでの疲労なんて一気に吹き飛ぶ。
だって、このズラリと並んだ提灯!
あちらこちらから聞こえる337拍子。
お酒。屋台。そして見世物小屋。
平静でいろ、という方が無理なくらい、ドキドキさせるものが揃っている。
そう「見世物小屋」。
えっ、そんなもの今の日本にあったの?
さっそくワクワクしながら「異世界」への扉をくぐる。
人なんてあまり入っていないだろうと思っていたら、室内は超満員。
いかにもお手製な感じの木の舞台。
赤いカーテンや青、黄色に塗られた小道具がキッチュで、なんとなく南米の乾いた田舎町が、遠い記憶からすっと脳裏に浮かび上がる。
口上をたたくベテランのおばさんが慣れた調子で会場を盛り上げる。
目の前にいた若いおかっぱの娘に目をやると、彼女は血のように真っ赤な浴衣を着て、目の回りが黒く塗られている。雰囲気にただならぬ凄みがあって、まるで幽霊話から出て来たような感じだ。
そして、その隣にはこれまた幽霊のようにうっすらと透けるように立っている、白い浴衣をきたおばあさん。
舞台の上には、「祭り」と書かれたはっぴに、ラメのスパッツを着たお姉さんやおばさん。
なんだかすごい所に紛れ込んでしまったぞ、と思う。
かわいらしい犬のショーなどが終わると、だんだん「かわいい」なんてにこやかに見守っていられない出し物になっていく。
頭が二つある牛のミイラ、本物の生きた巨大大蛇が登場したあとは、おかっぱ頭の赤い浴衣の女が、鼻の穴にチェーンを入れ、喉から出してみせる。しかもそのチェーンでバケツを持ち上げる。
ナマの蛇を食いちぎる。
白い浴衣のおばあさんは、ロウを口にたらし込み、大きな炎を吹き上げる。
しかも、そのあと火をぱくぱくと食べるように燃える紙を口に入れる・・・。
「もう、いいよ、そこまでしなくていいよ、あなたたちすごいから・・・。いいよ、いいよ平和にいこうよ。」
思わず声をかけたくなるくらい、体を張った「芸」ばかり。
まるで小学生のように、最前列にしがみつき、口をぽかーんと開けながら、いちいち「きゃー」とか「ひいい」とか言いながら舞台に釘付けだった。
そしてそんな舞台を見ながらふと、「この人たち、いまこの瞬間働いているんだなあ」という思いが頭をかすめた。私なんて仕事っていったら最近は座ってばかりだけど、こうやって深夜大勢のお客さんを前に蛇を食べたり、火を吹いたり。そういう人生もあるんだよな、と。
なんの予備知識もなく、まさか今の日本に「見世物小屋」なんてものがあることも知らなかったので、外に出てからはしばらく興奮が冷めなかった。
それにしても、これって、まるでガルシア・マルケスの世界。
南米の田舎街へ旅をしてきたような、昔話の世界を覗いて来たような不思議な感じがした。
やっぱり世界には摩訶不思議なものが、まだまだたくさんある。